2017年09月15日

フォルテピアノ第一人者小倉貴久子さんへのインタビュー(5)

第5弾となる今回は、モーツァルトを育てた父レオポルトの教育方針についてです。私はこの伸びやかな小倉さんの語り口が大好き! (4)の文末にリンクでご紹介した小倉さんのシリーズ・コンサートでは、フォルテピアノの演奏とともに、この楽しい語り口も味わうことができます♪ 


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【小倉貴久子さんへのインタビュー】
ムジカノーヴァ2014年7月号より インタビュアー中嶋恵美子

―― 小倉さんは古典派の曲でリピートするとき、当時のスタイルで即興を加えていらっしゃいます。バロック時代の舞曲形式から、リピートするときに即興するというスタイルがあったわけですが、それがなくなるのはベートーヴェンくらいですか?

 ベートーヴェンは、繰り返しのときに即興されるのを嫌がったんですね。若いころの作品にはリピートが書かれていますけれど、だんだん書かなくなります。好き勝手に即興されたくない、という気持ちがあったんじゃないかと。ただ、音を加えられるのは嫌でも、繰り返しを同じように演奏することはなかったと思います。当時の聴衆は、繰り返した後どう変化するのか、という点に大きな関心を持っていましたから、ダイナミックレンジを変えたりといったことは必要ですね。

―― CD『輪舞』の小倉さんの即興は、モーツァルトのスタイルを保持しつつも、左手のリズムが変わっていたり、音が加えられていたりと変幻自在。当時の即興の在り方や、どういう時代だったのかという点について、お話いただけますか?

 モーツァルトの場合、何かやってやろうと奇抜なことをすると音楽が嫌らしくなってしまうんです。そういう演奏は絶対に避けたい。天真爛漫で自然な感じがいいですね。音楽は自然でなければいけないというのは、お父さんのレオポルト・モーツァルトがいつもヴォルフガングに言っていたことです。でも、音楽の自然さと当時のスタイル、このふたつの一体感を保つのはすごく難しいです。
 モーツァルトは天才ですけれど、ものすごく努力家でもあった。その彼にとって、この人以上の先生は考えられないという最良の師がお父さんです。レオポルトは、系統的な音楽教育を受けたわけではないようですけれど、独学でヴァイオリン教本まで書いたすごい勉強家。しかも、音楽以外の分野にも非常に興味を持っていた博識な人でしたから、レオポルトはヴォルフガングのすばらしい才能を知って、自分の人生はこの子に賭ける、ザルツブルクに留まっていてはダメだ、と旅行を決行したわけです。ペストやコレラの流行、馬車での悪路の移動など、死と隣り合わせの危険な長旅に子どもを連れて行くなんて、生半可な気持ちではできないことですよね。

 でも、レオポルトが重きを置いた教育方針のひとつが、違う文化に触れさせることだった。イタリアの陽射しはザルツブルクとは違うし、建物や絵画も、そこで活躍している音楽家たちの作品も違う。今みたいにインターネットがあるわけではないですから、情報をキャッチするには現地に行くしかなかったわけです。各地でいろんな作曲家が、ヴォルフガングはすばらしい才能の持ち主ではあったけれど、子どもだったこともあって、きっと全部手の内を見せてくれたんだと思います。音楽のために吸収しなくてはいけないものがある場所、それこそヨーロッパ中の行くべきところは全部行ったんじゃないかと。人格形成に大きな影響を与える幼少期の経験。その豊かさが、モーツァルトの才能を大きく開花させたわけです。







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emksan at 10:01│ 音楽/本・CD | ピアノ/練習&勉強