2016年04月20日

リョウくんの涙

『発達障害でもピアノが弾けますか?』に登場した、
自閉症のリョウくん。

昨日、リョウくんの苦しい気持ちに触れて、
もらい泣きしてしまいそうな瞬間がありました。 
高校を卒業して新しい環境になり、
調子が悪そうなリョウくん。


「ジブリの映画は悪い? ジブリの映画が見られません! 
また悪いやつがきちゃう? 恵美子先生! 聞いてください! 
12月○○日に怒られた? もう見ちゃダメって言うの。」
 


12月というのは去年のこと。
調子が悪くなると、12月のことがフラッシュバックします。
多分、ジブリ映画のDVDを見ていたとき、
なんらかの事情で再生を中断せざる得なくなくなったのでしょう。
リョウくんは最初から最後まで
全部通して見られないとパニックになります。
1、2回そういう中断を経験した程度では大丈夫らしいのですが、
同じDVDで何度も中断を経験してしまうとトラウマになり、
そのDVDが見られなくなるのです。 


「成長します。いつか見れる?」


これは、いつかトラウマを克服して、
もう一度大好きだったDVD を見られるようになりたいという、
リョウくんの気持ちの表れです。


「怪物くんも見れるようになったし、
崖の上のポニョも見れるようになりました。」



昨日は、かぐや姫のどこかのシーンが気に入らなかったようです。
以前、怪物くんでも同じことがありました。
悪い奴が出てきたのか、
それとも大好きな怪物くんに
許せない行動や言動があったのか?
その存在やシーンが許せなくなると、
それがパニックの引き金になるんですよね。
かぐや姫にも、もしかしたらそういうシーンがあるのかもしれません。 

最近は調子が悪くなると
「自分をコントロールします」と声かけをし、
後ろのイスに座ってもらい、
モーツァルトのアイネ・クライネ・ナハト・ムジークをかけています。
音楽を聴いていると、落ち着きを取り戻すことができるからです。

普段は1度聴くだけで落ち着くのですが、
昨日は「もう大丈夫です」と
ピアノの前に戻ってきたにもかかわらず、
すぐにぶり返し、同じ状態に陥ってしまいました。


「Aちゃん(妹)が怒っちゃう?
お母さんも、Aちゃんも悲しむ?
ボクが悪いことをするんだ。
悪いことをするから怒っちゃう?悲しんじゃう?」



リョウくんが自分のことを責め始めたので、


「ジブリが見られなくなって悲しいのはリョウくんでしょう?
リョウくん、自分に優しくしてあげようよ。
お母さんもAちゃんも、リョウくんのことが大好きだよね?」

「うん。」

「先生もリョウくんのことが大好きだよ。
リョウくんはいい子だよ。悪い子じゃないよ。
だから、自分を怒らないで、もっと優しくしてあげようよ。」


そう話しかけていると、
リョウくんの目から涙がこぼれ落ちました。

愛する周りの人たちを怒らせたり、
悲しませたり、困らせたりしてしまう自分を、
ふがいなく思ってしまう。
そんな自分が嫌で、
パニックに陥る自分を悪い奴と思うのでしょう。

リョウくんの辛い気持ちに触れた気がして、
私まで泣いてしまいそうになるのをグッとこらえました。
左手でリョウくんの手に触れ、
右手でリョウくんの背中をさすりながら、


「自分を大切にしてあげようね。
自分に優しくしてあげようね。
ジブリはいつか見られるようになるよ。
崖の上のポニョだって、
成長して見られるようになったでしょう?」


と声をかけました。

表情が落ち着いてきたので、
もう一度モーツァルトを流したところ、
その後はフラッシュバックすることなく、
通常通りにレッスンを進めることができました。

毎回レッスン最後の5分は、
リョウくんのリクエスト曲を弾いてあげています。
この日、リョウくんがお気に入りの楽譜から選んだ曲は、
となりのトトロでした。


「いいね〜! 明るい気分になろう!」


トトロを聴いた後のリョウくんは、
表情が和らいではいたものの、
完全にリラックスできたという表情ではなかったので、
レッスン最後にいつもあげている
飴やマシュマロを2つ選んでもらいながら、


「甘くて美味しいよ♪ いい気分になって帰ろう!」


と促しました。
リョウくんは甘いお菓子を口に含むと、
気持ちが上向きます。
レッスン中も、あまりに調子が悪いときは、
モーツァルトを聴くだけでなく、
「飴でもなめたら?」と勧めることがあるほどです。

リョウくんも気持ちを上向きにしたいと、
強く願っているんですよね。
いや、リョウくん自身が一番それを願っているんです。

このときは、レッスンも頑張ったし、トトロも聴いたし、
甘いお菓子を口に含めば、
気分がもっと上向くかもしれない!
そんな期待をリョウくんから感じました。

そして、その期待通り、
しばらくするとリラックスした表情になり、


「次のレッスンは4月○日です!」


いつも通り元気な宣言をして、
帰っていきました。

リョウくんの知的障碍は、それほど重いものではありません。
楽譜も読めますし、
私の言葉もきちんと理解してくれます。

レッスンでは自傷行為は見られませんが、
日常生活ではパニックや激しい自傷行為があります。
パニックが収まれば、
自分が何をしたのか、どういう状況だったのか、
周りはそれにどう対処したのか、どう感じているのか、
全てを感じ、理解することができるんですよね。

あらゆることが見えているにもかかわらず、
自分をコントロールすることができないジレンマがあるのだと、
リョウくんの涙を見て思いました。

生活環境が様変わりし、
今はそれに対応するので必死なのだろうと思うのですが、
レッスンが日々の疲れを癒す、
穏やかな気持ちになれる時間になったならと願っています。


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emksan at 23:50│TrackBack(0) 障碍&幼児 | ピアノ/レッスン

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