2015年09月11日

一生涯上達していくために

ピアノを教えていて一番大切にしていることは、
生徒さんが一生涯上達し続けていくための、
土壌を作るということです。
生徒さんが音楽の道に進もうが進むまいが、
たとえ途中で習うのをやめようが、
ピアノのある人生を歩んでいってもらいたい。
多くのピアノ指導者が同じ思いで、
レッスンなさっているのではないでしょうか。

今後ムジカノーヴァの連載では、
導入期に学ぶべき基礎の話が主になるので、
内容がテクニック一辺倒になってしまいますが、
一生涯上達していくには、
テクニックを培うだけではバランスが悪く、
不備があると考えています。

もちろん変な癖をつけずに、
正しい基礎を身につけることは、
上達し続ける上で必要不可欠なことですよね。
変な癖がついてしまうとあっという間に頭打ちになり、
それ以上難しい曲が弾けなくなりますから。
変な癖がついていなければ、
どんなに歩みは遅くとも、
際限なく伸び続けていくことができるものです。

では、正しい基礎さえ身についていれば、
ピアノは一生涯続けていくことができるのでしょうか?
私には、そうは思えません。


厳しいレッスンにトラウマがある。
アドバイスをもらわないと弾けた気がしない。
高い意識を持ってピアノと向き合わない限り、弾いてはいけない気がする。
ピアノは愉しむものではなく、練習するものだという意識しか持てない。
ピアノ曲は聴きたくない。


子どもの頃からピアノ中心の生活を送ってきた人の中には、
こういう人が少なくありません。
私も20年程前まで、こういう精神状態にありました。
これくらいひっ迫した気持ちでピアノに向かわなければ、
ピアノは弾けるようにならないのか?
ピアノを弾く以上、この感覚は義務なのか?
常に高いモチベーションを持ち続ける人でなければ、
ピアノを弾いてはいけないのか?

これらの問いに対する答えは、もちろんNOですよね。
3,40年前であれば、YESと答える指導者もいたでしょうけれど、
いまどきはNOと答える人が大多数ではないでしょうか。
一生涯上達していけるだけの基礎を培いつつ、
これらのNOを満たしたレッスン。
それが私の目指しているところです。

そのため、私は精神の伸びやかさを、
もっとも大切にしています。
伸びやかな精神で音楽に向き合うということ。
これは、基礎をないがしろにするということではありません。
基礎があるからこそ伸びやかになれる。
真の基礎とは、そういうものではないでしょうか。


ピアノを弾くのは好きだけれど、自信がない。
子どもの頃、きちんと練習してこなかったコンプレックスがある。
ピアノが上手な人を目の前にすると、萎縮してしまう。
自分に美しい音色は出せないと思い込んでいる。
上達するための方法論がわからない。
これ以上、自分が上達するとは思えない。



子どもの頃からレッスンもピアノも大好きだったのに、
きちんとした基礎を学んできたという自覚がなく、
コンプレックスにさいなまれてしまう。
これらも伸びやかな精神で音楽に向き合っているとは、
いえないのではないでしょうか。
基礎をないがしろにしてしまうと、精神は萎縮してしまうのです。

自分を律して練習してきたという自覚は、
どこまでも成長し続けていけるという自信に繋がります。
物事から逃げることなく、勇気を持って向き合った経験のある人は、
精神に筋力がついていて、
伸びようと思うとグンッと体を伸ばすことができるんですよね。
筋力がないと動きがとれないので、とても不自由になります。

しかし、逃げずに自分を律し、勇気を持って向き合うためには、
意義を見出せなければなりません。
何の意義も感じないところに、
勇気を持って飛び込むことなどできないですよね。

何故この練習をしなければならないのか?
何故そういう手の形で弾かなければならないのか?
理由がわからなければ、やる気にはなれません。
自分を律するというのは自発的なものであり、
人から指図されるものではないんですよね。

では、基礎を学ぶ意義は、どこにあるのでしょう?
このところ投稿している動画や、
ムジカノーヴァの連載は、
テクニック的な側面だけに焦点を当てているので、
これらから音楽的な意義を感じ取るのは難しいかもしれません。
しかし、基礎の意義は、音楽表現にあるべきですよね。


ピアノという楽器で音楽を表現するとは、どういうことなのか?
そもそも、音楽で表現するってどういうことなのか?



これらを見失ったレッスンほど、意味のないレッスンはないでしょう。
何故ピアノを弾くのか?という原点を見失っているのですから。
基礎を学ぶとき、そこには常に音楽があるはずです。
音楽のない基礎は、伸びやかな精神を蝕んでしまうだけ。
この記事の冒頭に書いたような、
「ピアノ曲は聴きたくない」という心理を生み出し兼ねません。

音楽の道を進む人であれ、趣味で弾く人であれ。
6時間ピアノを練習する人であれ、
20分しか練習しない人であれ。
一生涯上達し続けていくために必要な土壌は、
音楽という原点を見失わない、
伸びやかな精神を伴った基礎にあるのではないでしょうか。


【ピアノの共鳴で遊ぶ】

今日FBに投稿したものです。
https://www.facebook.com/emikopiano/posts/468080953374890?pnref=story


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emksan at 15:46│TrackBack(0) ピアノ/レッスン 

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