2015年08月20日

中学3年生自閉症スペクトラムの子の過去を振り返って

昨日FBに動画を投稿した子です。現在あまりにもスムーズにレッスンできているものだから、思わず昔のことを忘れてしまいがちなのだけれど、振り返れば、私がレッスンしてきた発達障碍の子の中でも、特に思考錯誤が必要だった子なんですよね。どうやってレッスンしたらはかどるかなと。私の投稿を読んでくださる方の中には、発達障碍の子や、グレーゾーンの子のレッスンで悩まれている方も多いわけで、できれば私の思考錯誤を包み隠すことなくご紹介していきたいと考えているのですが、あまりにも今が順調なので、大変だったときのことを忘れてしまいがち。

この子は、イヤイヤ虫がかなり激しいタイプの子だったので、みな
さんのヒントになるようなことがたくさんあるのではと思うのですが。なにしろ今は、全くイヤイヤ虫が出てこないので。(笑) 小学3年生から習い続け、中学1年生までの間は、イヤイヤ虫の対応に追われていた気がします。イヤイヤ虫というのは、我儘なわけではないんですよね。この子にとって、どうしても受け入れられないことで、どんなに努力して頑張っても受け入れられないことなのです。

小学高学年になって、受け入れられることが少しずつ増えてきた頃
、これくらいなら頑張って受け入れられるだろうと食い下がったことがありました。ところが、しばらく私が引かずにいると、涙をポロポロと流し始めたんですよね。「あ!これは頑張れることではなく、本当に無理なことだったんだ!」と反省。こういうことが2回ほどありました。どこまでが頑張れることで、どこからが本当に無理なことなのか。いつからか、この子にしても他のイヤイヤ虫がつくタイプの子にしても、こういう子たちの「できない」「無理」という発言には、嘘はないのだと思うようになりました。頑張る気がなくて「無理」と思っているわけではないということです。

頑張れない理由は理解に至っていないからという場合もありますが、それだけ
でなく、精神的にどうしても受け入れられないということもあります。理由が精神的なものだからといって、我儘なわけではありません。だからこそ発達障碍という診断を受けているんですよね。特に、自閉症スペクトラムの子は、私たちと感覚が異なることが多く、どうしても受け入れられないということが出てくるようです。中学生くらいになると視野が広がり、「そっか!今まで雑然としてわけのわからなかった世界は、こんな風に成り立っていたのか!」と世の中への理解が突然深まり始めます。そうすると、今まで受け入れられなかったことが受け入れられるようになったりするんですよね。

この子も、中学生になった頃から、突然いろ
んなことに理解を示してくれるようになりました。そして、様々なことに興味が湧くようになり、挑戦する意欲が出てきたのです。学校では漢字やことわざに夢中になり、チェロも習い始めました。まだイヤイヤ虫が時々出現していたので、チェロを習いたいと言い出したときは「大丈夫かな?続くかな?」と思いましたが、バッチリ今でも続いています。

この子がピアノを習い始めた小学3年生の頃、週に1日練習することも、なかな
か受け入れてもらえませんでした。何故練習しなきゃいけないのか、納得がいかなかったようです。こういうときは頑として動かないので、周りがどんなに働きかけても無理なんですよね。これは我儘ではなく、そこには何らかの納得のいかない理由があると感じています。問題は、その納得のいかない理由に、私が気づいてあげられないということです。何が原因なのか?1週間という期間を理解できていないからなのか、練習に必要な集中の持続が難しいからなのか。これが原因かな?と思い当たるところがあったとしても、それを克服するための手立てを考えなければなりませんし、その手立てが可能な時期もあれば、可能になる時期を待つしかないこともあるのです。

この子は今、週に4日練習してくれています。何年もかけて、段
階を持たせてここまで来ました。とはいっても、この段階は私が作り出したものではなく、この子を取り巻く環境だったり、この子の成長がきっかけだったのですが。最初のきっかけは、発表会でした。同じ年頃の女の子たちのドレスを見て、「来年は私もドレスを着る!」と言ったんですよね。初めての年、お母さんはドレスを着せたかったようなのですが、本人は頑として嫌がり、ワンピースの色も地味な黒。ところが、翌年はピンクのドレス!

その上、発表会で他の子が演奏する姿を見たことで、ピアノへの取り組みが変
わりました。最初のうち、週3日というのは受け入れてもらえず2日ではあったのですが、それでも家で練習してくれるようになったのです。2回目の発表会後、「私も2曲弾く!」と言いだしました。他の子が2曲弾いていたのを見て、自分も2曲弾きたいと思ったのです。「でもね、週に2日の練習じゃ、2曲も弾けるようにならないよ。今まで1曲仕上げるのでも精いっぱいだったでしょ?2曲弾いてもいいけれど、2曲弾くには家で練習しなきゃだよ。」と説明したところ、週3日の練習が身につきました。

小学6年生の後半、「もうすぐ中学生です。もう大人です。」と口癖のように言うようになったので、これはいいきっかけになるぞ!と思った私は、中学1年生になってすぐ、「もう中学生。大人だね。大人になったから、週に4日か5日練習しよう。どっちがいい?」と切り出すことにしました。この子が選んだのは週4日です。それ以来、真面目に休むことなく、毎週4日練習してきてくれるようになりました。

自閉症スペクトラムの子は、真面目だなぁといつも思います。ルールが入ると、そのルールをなんとしてでも守らねば!と思うんですよね。そのため、ちょっとくらいルールから外れてもいいから、息抜きしたら?と思うことがあるほどです。小学生のうちは、「弾けないところを弾けるようになるまで練習する」という発想がなく、練習とは何なのか?を理解することができないので、練習方法をかなり具体的に提示しているのですが、やるとなったら真面目に提示された順番で、提示された回数を練習するんです。


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上写真は、『あきらめないで!ピアノ・レッスン〜発達障害児に学ぶ効果的レッスンアプローチ〜』(ヤマハ・ミュージックメディア)に書いた、第1章(1)具体的に伝える _箸任領習方法を伝える です。この子には、具体的に伝えることを特に心掛けていました。イヤイヤ虫が付きやすいのは、物事の成り立ちを理解できていないから、ということが多かったからです。

毎日の練習はきつすぎるというこの子から、週に何日であれば練習できるのか?ということを導き出すのは、とても大変なことでした。1週間は7日あるということ。その7日のうち2日なり3日なりを練習するということ。この1週間の成り立ちを理解するのが難しかったのです。2日は頑張れるけれど、3日は絶対に無理!というこの子の気持ちを尊重するためには、この子が何日であれば頑張れるのか、私の方で把握できていなければなりません。3日は絶対に無理というのは、この子が真面目だからなんですよね。練習する以上は、確実に100%の内容で練習しなきゃいけないという気持ちがあるからこそ、3日は無理と思うのですから。

次のレッスンまで何日あるのかを一緒に数え、その中の何日であれば頑張れるのかを聞き出します。しかし、「何日頑張れる?」という質問は漠然としていて、質問の意味を理解してもらえないので、この子から答えを引き出すことはできません。そこで、「2日と3日と4日のうちどれがいい?」と具体的に日数を挙げ、選択してもらいました。この子から2日という希望を聞き出すことができたら、次に、何曜日に練習するかを決めてもらいます。1週間のうち2日と決めるより、何曜日はピアノを練習する日と決めてしまった方が理解しやすく、練習が身に付きやすいからです。

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上写真は、障碍のあるなしに関わらず私が使っているレッスンノートの一部です。曲名、練習方法の欄の下に、このような欄があります。左端の「 / 」は、何月何日と、練習した日付を書く欄なのですが、この子の場合は、ここに何曜日と私の方で書いていました。練習した日という、過去を記録する欄としてではなく、練習する日という、ルールを記入する欄として使用していたのです。中学3年生になった今、週に4日というルールが定着し、何曜日に練習するという決まりを一緒に考える必要はなくなりました。今では練習した日付をこの欄に書いてきてくれています。

ところで、この子のこれまでのレッスンについては、以前FBにもノート投稿しています。


小学3年生からピアノを習い始めた子ですが、当時はイヤイヤ虫が強く、一度「弾く」と言ってくれた曲も、ちょっと弾いてみただけで「難しいからイヤ!」と拒否され、何度も教材を変えた子でした。手のポジションが変わることにも拒否反応が強く、手を広げることができるようになるのに何年かかかりました。たとえば、ドーミを1−2の指で弾く、ミーソを2−3の指でひく、ドーラを1−5の指で弾くなどです。これは、自閉症スペクトラムの子によくみられる「ドレミファソは12345の指じゃなきゃイヤ!」というこだわりではなく、この子の場合、体感として手を広げるのが嫌い、ということだったように思います。手を広げる感覚が嫌いだったのです。


手を広げることについて、少し補足をと思います。この子はとても明るいキャラで、お笑いが大好きな子です。この子独特の、笑うツボみたいなものがあったんですよね。そこで、手を広げることを受け入れてもらう働きかけとして、前もって私の方から面白可笑しく告知する、という方法を編み出しました。色音符がスラスラ読めて、指番号もわかるこの子は、色音符の楽譜であれば、片手で手助けなしに弾くことができます。しかし、手を広げないと弾けない箇所が出てくると、その楽譜を見たとたんに「わからりません!」とか、「気持ちが悪いです!」などとイヤイヤ虫が出現してしまうのです。そのため、こういう箇所については、楽譜を読ませずに私の方で告知してしまうことにしました。

「これから先生が弾くのを見てね。ほら!見て、見て!!!手がビヨォ〜〜ン!」と、私の手の動きにだけ注目してもらうよう声かけします。これは、面白可笑しく表現するのがコツです。この子は私の「ビヨォ〜〜ン!」という言葉の響きに大笑い。これで一気に受け入れ口が広がりました。それまで気持ちの悪かった手の広がりに、興味を持ってくれるようになったのです。そこで、すかさず「先生の手の上に手を載せてごらん。」と言い、私の手の上に手を載せてもらいました。私の手を大げさにビヨ〜〜ン!その伸びた感じを、まるでゴムのように面白く体感してもらえるよう手を広げました。

この働きかけをした箇所については、手を広げるのを嫌がらなくなりました。そのことがわかって以降、例えば「ドーミ」を「1−2」で弾かなければならなかったり、「ミーソ」を「2−3」で弾かなければならないような箇所を見つけたら、この子が楽譜を読む前に、このアプローチで面白可笑しく告知するようになりました。最初の2年くらいは、毎回この働きかけをしないとイヤイヤ虫が出現していたのですが、今ではこういう働きかけなしに手の広がりを受け入れてくれています。

ところで、この子は両手奏が苦手な子でした。片手ずつであれば余裕で弾けるのに、両手になったとたん頭の中が混線してしまうらしく、弾けなくなるのです。この子が次々に教材を嫌がった一番の理由は、ここにあった気がしています。この子が弾きたそうな曲の入った教材を選び、その中から弾きたい曲を選んでもらっても、取り組んでいる途中で「弾きたくありません!」と、あるとき急に頑としてその曲を弾いてくれなくなるのです。しまいには、曲どころか教材そのものを拒否されてしまいます。

そういうことが何度かあり、コロコロと教材が変わりました。この子の小学生時代は、いかに途中で投げ出さずに最後まで1曲を弾けるようになってもらうか、思考錯誤の連続でした。もっと早くに両手奏の何が難しく、どこでつまづくのかを私が分析できていれば、もう少しラクさせてあげられたのになぁと感じています。今では付き合いも長くなってきているので、つまづきやすい両手の音型と、頑張ればできる両手の音型の違いがはっきりわかります。この詳細については、先日FBに投稿しているので、こういう子のレッスンカリキュラムの参考にしていただけたならと思います。

この記事冒頭にリンクした、現在のこの子の演奏動画を見たら、この子がこういう経緯でここまで来たということは想像できないのではと思います。そのため、今、思考錯誤中の生徒さんを抱えている先生方は、動画をみて焦りを感じてしまわれる可能性もあるかと思うのですが、この子が習い始めたのは小学3年生の頃のこと。今は中学3年生です。しかも、この子が伸び始めたのは2年ほど前からのことで、それまではFBのノート投稿に添付した1枚目の楽譜でも、イヤイヤ虫がついて途中で拒否されてしまうのではと、不安に思いながらのレッスンでした。

こういう子のレッスンで大切なことは、焦らずその子のペースを尊重しながら、その子に「これなら自分にもできる」と思ってもらえることから取り組み、じっくりと時間をかけて下地を作っておくことだろうと思います。地道に下地を作っていれば、伸び時がやってきたとき、グンッと成長してくれると感じています。この子にとっての伸び時は、中学1年生の後半にやってきました。生徒さんによっては、小学5年生くらいで伸び時がやってくる子もいますし、中学3年生頃にやってくる子もいます。

習い始めの4,5年は、進んだ感じがしない、上達している感じがしない、そんな不安を感じながらのレッスンになるのではと思いますが、どうぞ焦らずに、今は下地を作る時期だと腹をくくり、その子が長くピアノを続けてくれることを祈りながらレッスンしてみてくださいね。そのためには、ピアノへの愛着、音楽を愛好する心を育み続け、ともに音楽を味わうレッスンが大切なのではないでしょうか。私は、いつでも、どんな生徒さんでも、レッスンに通い続けてくれている限り、いつか伸び時がやってくると信じています。


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emksan at 14:03│TrackBack(0)mixiチェック 障碍&幼児 | ピアノ/レッスン

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