2014年09月09日

広汎性発達障碍SYOTAくんの記録(動画)

MusesTown『SYOTAの部屋』で、SYOTAくんの作曲作品をご紹介させていただいていますが、ここでご紹介させていただくのは、教室の行事から見るSYOTAくんの成長の記録です。この記録がみなさんのレッスンに役立つものであることを願いながら、記事にさせていただきました。
※現在各地に赴いてのセミナーはしていません。「ネットでセミナーとして無料動画配信しています。このブログ右サイドバーにリンクしています。
※SYOTAくん本人と親御さんからネット公開のご了承を得ています。


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広汎性発達障碍のSYOTAくんは、小学2年生のとき教室にやってきました。多動だったので、5分と落ち着いていられませんでしたが、音楽が大好きで、聴いたことのある音楽を耳コピーし、自己流にアレンジして弾いているような子でした。5分ピアノを弾いたら次の5分は打楽器、再び5分ピアノを弾いて〜というレッスンの中、音楽が大好きなSYOTAくんは、それぞれ5分ずつではありますが、夢中になってピアノを弾き、夢中になって打楽器を叩いてくれました。

最初の映像は、SYOTAくんが小学2年生の頃のものです。使用していた教材はオルガン・ピアノ。この程度の楽譜であれば読譜できたSYOTAくんですが、ここに書かれた音符通りにSYOTAくんが弾くことは決してありませんでした。楽譜に書かれた音を自己流の音に変化させて弾くんです。シルク・ドゥ・ソレイユのような色合いというか。(笑)私はその独特な世界観が大好きで、よくそこに伴奏を付けて一緒に遊びました。映像では、音を変化させるだけでなく、前奏と間奏を入れてくれています。


SYOTAくん小学2年生 (YouTube動画)


この頃のSYOTAくんは多動だったため、姿勢や手の形などについては一切レッスンしていません。SYOTAくんが繰り広げる音楽の世界を、私も一緒に堪能する。そういうレッスンだったように思います。次の映像は、調性の概念がないSYOTAくんに、調性へのアプローチをし始めた頃のものです。小さいうちは不思議な世界観でも、「才能があるわね」と周りの人に喜んでもらえますが、大人でこういう世界観しかもっていなかったとしたら、誰もSYOTAくんの作品に振り向いてくれなくなるだろうと思ったからです。

ある日、SYOTAくんが弾けるようになったオルガン・ピアノの曲を使って、「先生これから、この曲をいろんな風に変身させてみるから聴いてね!」といい、主音を1音ずつ上げ、どんどん移調して弾いてみせました。主音が1音上がるたび音楽は高まっていきます。そのたびにSYOTAくんは目を白黒させて「なんだこれは!面白い!」という表情を見せてくれました。こういうときSYOTAくんは、顔を紅潮させて、ふんがふんがと鼻息が荒くなります。内心「これは大成功!」とガッツポーズ。

耳のよいSYOTAくんは、たった1回のアプローチで、あっという間に自分のものにしてくれました。それ以降、弾けるようになった曲は、移調をして遊ぶようになりました。「○○駅〜次は○○駅〜」移調のスタイルもSYOTAくん流。(笑) この頃から、楽譜通りに弾くというアプローチをするようになりました。作曲家の名前が書かれている楽曲は「アレンジ不可」、作曲家の名前が書かれていない楽曲は「アレンジ可」というルールを設けました。

自閉症スペクトラムの子は、一度ルールが入ってしまうと、そこから抜け出すことができなくなってしまいます。全ての楽曲でアレンジ不可・・・なんてルールがSYOTAくんに入ってしまったら、SYOTAくんからアレンジの自由を奪うことになってしまいます。そこで思いついた苦肉の策が、このルールでした。このルールにより、楽譜通りに弾いたり、アレンジを楽しんだり、ある程度幅を持たせたレッスンができるようになりました。

教材はオルガン・ピアノ。調性の概念を身につけたSYOTAくんが、そこにアレンジを加えています。


SYOTAくん小学3年生


SYOTAくんは、フォルテやピアノという音量の変化に全く興味を示してくれない子でした。これは、自閉症スペクトラムの子の多くに見られる現象です。興味を示していないというより、理解していないのだと感じます。理解できさえすれば楽しんでくれるようになるからです。そこで、目に見えるアプローチをするように心がけていました。大きな動作でタンブリンを叩きながらフォルテ、小さな動作でタンブリンを叩きながらピアノ。大きな円を描きながらフォルテ、小さな円を描きながらピアノ、といった具合です。

ある日、「レベル5!」という言葉とともに、SYOTAくんが音の大小を理解してくれました。SYOTAくんは理解できた瞬間、自分流の言葉に置き換えてくれるのです。レガートは「ソフトクリーム」、ポロポロとしたタッチは「じゃがりこ」でした。(笑) そして音の大小は「レベル1〜レベル5」です。これ以降、自閉症スペクトラムの子にはこの言葉を使って伝えることが多くなりました。この言葉より動作で伝える方が理解してくれる子もいますが、何%や、レベルいくつ、という数値の方が理解してくれる子も多いからです。

音の大小がわかり、そう表現するための鍵盤の操作方法を身に付けた後、クレッシェンドやデクレッシェンドなどのアプローチを開始しました。次の映像は、それと並行しながら「音色」についてアプローチしていた小学5年生頃のものです。音色というのは、目に見えない漠然としたものです。何が美しくて、何が汚いのか?その違いがなかなか伝わりませんでした。「ボクシングの音になっているよ」「イライラした音になっているよ」という言葉とともに、身体面からのアプローチも始めました。この頃、レッスンでは多動がなくなり、30分のレッスンをずっと座っていられるようになっていたからです。

SYOTAくんには完璧主義なところがありました。読譜の間違いなどは全く平気なのですが、思っていた音と違う音を出してしまうと堪えられなくなってしまいます。「間違えた!こんなはずじゃなかった!こんな音が出てくるはずじゃなかった!」と思うと、間違えたのがその曲の1小節目だったとしても、その後最後までつんざくようなイライラとした汚い音で弾いてしまいます。「イライラした汚い音では弾きません」「間違えてもいいですが、汚い音はダメです」という声かけを頻繁にするようになりました。(SYOTAくんは「ですます調」でしゃべる子でした。こちらの声かけも、「ですます調」の方が理解しやすい子だったので、重要な説明をする際には、このような語尾で声かけをしたり、ノートに書いたりしていました。今は大きくなり、このような語尾でなくても理解してもらえます。)

このアプローチが可能だったのは、SYOTAくんが精神的に安定していた子だったからです。不安定な子には要求できないアプローチでした。「イライラしない」という精神の抑制を要求するアプローチだったからです。しかし、SYOTAくんはとても真面目に、とても誠実に、自分の気持ちを抑制しようと努めてくれました。

2曲続けての動画となりますが、2曲目は自作曲です。この頃から「構成感」についてアプローチを始めていました。SYOTAくんが作曲する曲は、いろんな曲のサビのツギハギという感じだったからです。ABAといった構成でアプローチしようと思ったのですが、SYOTAくんにそれは通用しませんでした。AB・・・・CDEFGHI〜と作曲を続けてしまうからです。(笑)次の曲もそうやって終わりそうになかったので、途中で「ねぇ、この曲もうそろそろ終わりにしない?そうじゃないと、弾くための練習ができなくなって、発表会に間に合わなくなっちゃうよ。」と声かけしました。でなければ、きっとZまで作曲していたことでしょう。(笑)


SYOTAくん小学5年生


次の映像は、中学2年生になったSYOTAくん。音色というものに目覚めた年でした。美しい音色というものがわかり、音色に対するこだわりを見せてくれるようになりました。レッスン中、時折目を瞑りながら自分の音に耳を澄ますSYOTAくんがいました。映像は真っ暗な中で始まりますが、これはSYOTAくん希望の照明です。曲に合わせて徐々に照明が明るくなるという演出です。


SYOTAくん中学2年生


構成感のなかったSYOTAくんの作品。しかし私は、AとA1は3,4小節目と7,8小節目が違う、という一面的な説明はしたくありませんでした。このような説明をしてしまったら最後、自閉症スペクトラムの真面目なSYOTAくんは、このルールに則り、こういう曲しか作れなくなってしまうだろうと思ったからです。そこで、SYOTAくんが弾く曲をアナリーゼすることで、様々なAとA1に気づいてもらうことにしました。SYOTAくんの作曲へのアプローチは、音そのものへのアプローチは一切せず、このように「その存在に気づいてもらう」というアプローチが主でした。音そのものへ声かけしたところで、その音にはSYOTAくんのこだわりがあるわけですから、「こっちの方がいいよ」などと言っても受け入れてはもらえないですし、私はそういうレッスンはしたくなかったのです。

構成感へのアプローチと同時に、経過句、転調楽句、繋留音などへのアプローチも始めました。繋留音については難しい説明はなしにして、小節線をタイで結んだ曲を作曲してきて、という宿題を出しました。経過句は、SYOTAくんはいつも突然曲調が変わるので、「そんなに急激に変化したら、先生ついていけないよぉ。なんか、もっと自然に次の音楽に入れないかな?」と声かけをしました。音については口出ししないのですが、このような声かけをすると、その場であれこれ試してくれるのです。

転調楽句についても同じでした。「同じ調だけで曲を作らないで、途中で他の調に移る曲を作曲してきて。」という宿題を出しました。また、現在弾いている楽曲で、どのような転調楽句があるのかを一緒に見て、一緒に発見しました。SYOTAくんはこのような経験をすべて自分のものにしてくれます。「頭での理解」を通り越して、音の経験から「体感」として自分のものにしていくのです。

このようなアプローチを数年続け、中学3年生になったとき、「ああ、SYOTAくん、構成というものをしっかり自分のものにしてくれたんだな。理解できたんだな。」という曲を作曲してきてくれました。小学生の頃は、SYOTAくんが横で作曲するのを私がノートに起こしてあげていましたが、この頃には家で作曲し、楽譜に起こしてくれたものをレッスンに持ってきてもらい、私は書き方の間違いをチェックするだけとなっていたのです。次の演奏は、その時の曲です。中学で合唱部に入り、合唱の影響を色濃く受けた作品となっています。


SYOTAくん中学3年生


この曲は、のちに3声の合唱曲として、SYOTAくんにアレンジしてもらいました。3声の楽譜の書き方、言葉とメロディの兼ね合いだけを指導し、それ以外は自分でアレンジしてくれました。歌詞は同じ教室のお母様に依頼しました。私も試しに書いてみたのですが、なんともかんとも趣味の悪い歌詞しか思いつかなかったので。(笑)


SYOTAくん3声アレンジバージョン


今でもSYOTAくんは、教室の行事があるたびに作曲してきてくれます。作曲作品は、ホームページ内の「SYOTAの部屋」でご紹介させていただいています。次の動画は、20歳当日に本番を迎えたSYOTAくんの映像です。会場が湧いているのは、SYOTAくんがこの映像の直前に「今日私は20歳になりました」と言ったからです。会場から「おめでとう〜!」という声と拍手が起こりました。


SYOTAくん20歳



〜 本における、SYOTAくんの登場箇所 〜

・第1章 (4)完璧主義な子へのアプローチ
      間違えるとイライラする子のセコンドの子

・第1章 (5)こだわりの強い子へのアプローチ
      〇間に固執する子




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emksan at 23:17│Comments(0)TrackBack(0)mixiチェック 障碍&幼児 | ピアノ/レッスン

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