2013年10月03日

広汎性発達障碍4歳児:多動が見られる子へのレッスン(6)教材に頼らない楽曲アプローチ

 〜 広汎性発達障碍4歳児:多動が見られる子へのレッスン 〜

(1)個性を知る
(2)理解力を知る、(3)身体能力を知る 
(4)個性に応じたアプローチが基本
(5)3つの視点に応じたアプローチ具体例
(6)教材に頼らない楽曲アプローチ
(7)その後のこの子(FB投稿へのリンク)



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(6)教材に頼らない楽曲アプローチ 


この子はまだ4歳で多動が激しいため、通常の教材を使用することはできません。理解力や身体能力だけを見れば、教材使用可能なように見えますが、じっとピアノの前に座っていることができないため、教材に頼ったアプローチは受け入れてもらえないだろうと判断しました。レッスンを始めて1カ月、ピアノを弾くことが好きなので、数ヵ月後には教材を取り入れることができるのではと想像したりもするのですが、その時の様子次第と考えています。

私がこれまで指導してきた多くの発達障碍児は、未就学児ではなく小学生でした。小学校の生活に慣れた2年生頃からピアノを習い始めているのです。そのため、多動とはいえ未就学児ほどの多動ではなく、理解力の点からも最初から教材使用可能な子がほとんどでした。多くの場合、鍵盤把握が反射に繋がらず、理解できないことへの拒否反応が強くみられたので、この子たちが混乱しにくく、理解しやすい教材を選んで使用してきました。

特に、イヤイヤ虫がつくタイプの子は、教えられることそのものが苦手です。説明書を読んで理解するのは得意なのですが、人からああだこうだと説明を受けるのが苦手なのです。そういう子には、読めばわかる説明書的なアプローチが必要となるため、それに応じた教材を選んでいました。もちろん教材を選んだとしても、その通りに使用するのではなく、柔軟にそれぞれの子に応じた形に変化させる必要はありましたが、それでも私にとって使い勝手の良い、その子に指導しやすい教材を選んでいました。

定型発達児の場合、私は理解力以前に身体能力に重きを置いた教材を使用しています。幼児の身体発達に応じた、無理なく脱力や奏法が身に付きやすいと思われる教材を使用しているのです。しかし、この教材はオクターブによるポジション移動が頻繁に出てくるため、注意力散漫な子や、鍵盤把握が苦手な知的障碍児には向いていないと、他の教材を使用してきました。

  ※幼児音楽研究会で研究発表した
   『ピアノ導入期における教材』の報告に詳細を書いています。
   ご興味のある方は、
こちらをご覧ください。

まだ5歳のこの子の場合、何ヶ月後かに教材を使用できるようになったとしても、いきなり親指から5本の指を目指すには無理があると感じています。多動な子ですから、どういう状態でピアノを弾くことになってしまうのか、大体想像がつきます。これまで発達障碍児には使用してこなかった定型発達児に使用している教材は、この子の理解力であれば充分使えますし、1本指で演奏している現時点でのこの子には、2,3指から導入し、その時期が長い、この教材の方が向いている気がしています。5本指で弾くだけの注意力、忍耐力はまだないようにも思いますし、なによりこの子は鍵盤把握ができ、それに対する迷いがありません。反射的な2つと3つの黒鍵把握が必要となるこの教材を使っても、問題はないだろうと感じるようになりました。とはいえ、現段階では教材を使用できるほどの注意力と集中力の持続がまだないので、ここでは教材に頼らない楽曲アプローチについてご紹介したいと思います。

これからお話するアプローチに使用している楽譜は、カワイ出版から出ている『子どもと歌おう』という楽譜です。この曲集のすばらしい点は、伴奏が原曲通りということです。あのチューリップは、ヘ長調の楽譜。原曲通りに伴奏すると、楽曲イメージが大きく変わるのではないでしょうか。


子どもと歌おう
カワイ音楽教育部
株式会社河合楽器製作所・出版事業部
1998-12-10




1.アイアイ

「アーイアイ」と「アイアイ」の4分音符と8分音符のリズム模倣が目的です。また、教室の雰囲気に親しむという目的もあります。この子は不安感の強い子なので、まずは聴くだけというアプローチから始めました。1回目のレッスンは私が弾き歌いするのを何度も何度も聴いてもらいました。その後、タンバリンや鈴などを用い、この子と向かい合って模倣をしてもらいました。もちろん1人で模倣してくれるわけではありません。「ママと!」と不安感が強いこの子は、ママに手を持ってもらってでなければ付き合ってくれません。しかし、2回目のレッスンでは「アイアイ」の最後の8分音符を1人で叩いてくれました。最終的に、ピアノ伴奏に合わせてというのが目標ですが、今は私と向かい合っての模倣にとどまっています。


2.アビニョンの橋で

これは、何度か目のレッスンでピアノに向かうことを目的として取り入れた楽曲です。リズムが単純で、弾いてもらう音も2音でよいということで選びました。最初のレッスンは、聴いてもらうだけです。楽曲に慣れてきてからタンブリンやボンゴを取り入れました。このレッスンで、この子には安定したリズム感があるようだということがわかってきました。2回目のレッスンで、ピアノに向かってもらうことになりました。この楽曲でピアノに向かうのは、まだ何回か先のことだろうと思っていたのですが、思いのほかこの子がピアノに興味を示し、弾きたがっていたのでアプローチすることにしたのです。「ソ」の鍵盤に目印の鍵盤シートを置きました。

  ※鍵盤シートについてはこちらをご覧ください。

左右とも1本指で弾きます。左手は「ソ」、右手は「ラ」です。「ソソソソラララ」と「ソソソソラーソー」の部分だけを弾いてもらい、それ以外の部分は歌と伴奏を聴くだけで弾きません。この曲に充分親しんでいたこの子は、私に手を持ってもらうことを嫌がらず、最後まで興味を持って弾くのに付き合ってくれました。次のレッスンのとき、「ソソソソラララー」を1人で弾けるようになっていました。1人で弾けるので、私に手を持ってもらうのを嫌がるほどです。

楽曲に慣れ、不安感が減ってきたのを見て、「丸い指」というアプローチを加えることにしました。それまでは、エレベーターゲームだけで取り入れていたアプローチです。今後は「ソソソソラーソー」の箇所も弾けるようになり、1曲通して私の伴奏と合わせて弾けるようになることを目標にしています。


3.チューリップ

3度以上の跳躍がない、2度順次進行のみの楽曲は、鍵盤把握の必要がなく親しみやすいものです。そのため、教材に頼らない楽曲アプローチの初期、私は順次進行のメロディを選ぶことにしています。この曲は、「さいたーさいたー」「きれいだなー」の順次進行箇所を演奏し、それ以外の部分は歌うだけ、もしくは聴くだけというアプローチです。現時点でのこの子には、「1本指で丸い指」という目的を持たせているので、使う指は2指だけですが、この楽曲はレッスン展開させることのできる楽曲なので、今後半年から1年くらいかけて、次の方法で展開させていきたいと考えています。

  ̄Γ音悗世韻巴討
◆〆牽音悗世韻巴討
 右3指だけで弾く
ぁ〆牽鎧悗世韻巴討
ァ ̄Γ横械柑悗巴討
Α〆牽横械柑悗巴討


4.きゅっ きゅっ きゅう

思った以上にこの子のレッスン展開が早いので、まだ開始はしていませんが、準備している曲があります。これはその中の1曲。「ミファソ」の部分だけ弾くという、チューリップと同じレッスンを展開させることができます。曲のノリがチューリップとは全く異なるため、楽しんでくれるのではと想像しています。


5.イルカはザンブラコ

3拍子のノリを体感してもらう目的の楽曲ですが、今はまだ使っていません。現在使っている曲に慣れてきた頃合いを見計らって、取り入れたいと考えています。これは弾くことが目的ではなく、3拍子を感じることが目的なので、ピアノではなく打楽器を使った指導になります。

 …阿ことで楽曲に慣れ親しむ
◆.泪泙里膝で3拍子で揺れる
 楽曲に合わせてウンタンタンと打楽器で叩く。

については非常に難しいアプローチと考えています。この子はリズム感の安定した子と感じていますが、それでもできるようになるには時間がかかるかもしれないと想像しています。




ここまで4分音符と2分音符という単純なリズムの楽曲だけを選んできていますが、3回目レッスンの際、「アビニョンの橋で」を演奏していたとき、この子が歌詞に合わせて付点のリズムでピアノを弾きました。もちろん音は違っていますが、付点は難しいだろうと今後の課題に取っておいた私は、驚いてしまいました。

私がこれまで出会ってきた発達障碍児の多くは、付点のリズムでつまずきました。もちろん全ての子がというわけではありませんが、そういう子が多かったのです。しかし、この子は教えることもなく自ら付点のリズムで弾いてくれました。思っていた以上にリズム感があるのだと、このときのレッスンで認識しました。このことで、今後レッスンで使用する楽曲に幅が出たように思います。



その後のこの子のレッスンについてはこちら
http://musestown.livedoor.biz/archives/52119873.html


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私がネットでセミナー(無料動画配信)で語っている指導の視点を、1人の生徒さんに照らし合わせて説明するという試みは、今回が最後となります。この試みが成功しているのか失敗しているのか、私には判断できませんが、少しでもみなさんのお役に立つものであったならと願っています。




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emksan at 13:11│TrackBack(0) 障碍&幼児 | ピアノ/レッスン

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