2013年01月28日

ピアノの歴史22【弦】

ピアノの歴史1〜21は、ブログカテゴリ『音楽/ピアノの歴史』からご覧ください。




【弦】

ピアノの歴史には仕事柄興味があって、
いろいろと調べてきましたが、
何故これまで「弦」に目を向けてこなかったのか?!

ハンマーがフェルトではなく皮で、
大きさも親指くらいしかなかったとか、
産業革命のおかげで、
木製のフレームから金属製のフレームになったとか、
アクションや音域のこととか・・・。

いろいろ目を向けてきたはずなのに、
なぜか「弦」がそっちのけ。
チェンバロ・クラヴィコード・フォルテピアノと、
様々な演奏会に出かけて実物を見てきたにも関わらず、
「弦」に目を向けるということがありませんでした。

義父が国鉄で建設関係の仕事をしていたことがあり、
ピアノ線はとても丈夫なので、
橋の建設などにもよく使われると聞きました。
いつもお世話になっている調律師さんにそのお話をしたところ、


ピアノの弦は、ピアノ線ではなくミュージックワイヤという別のもの


と伺ったのです。
調べてみると”ピアノ線”には間違いないようなのですが、
工業用の”ピアノ線”とは区別して考えられているようです。
実際、ピアノ用のワイヤは最高品質の鋼が用いられており、
工業用のピアノ線とは異なる規格・製造工程を持っているそうです。

フレームが木製から金属製に発展したということは、
弦だって発展しているはず。
現代ピアノに使われている弦と、
チェンバロやフォルテピアノに使われていた弦とでは、
一体何が違うのか?
気になり出すと調べずにはいられません。

当時は、真鍮を使っていたそうです。
真鍮とは銅と亜鉛の合金で英語ではBrass(ブラス)。
金管楽器のブラスは真鍮が由来だったのですね〜。
ちなみに5円玉も真鍮。

真鍮は加工しやすい材質。
1ミリ未満の弦を作るには、
鉄より真鍮の方がはるかに容易だったということから、
楽器弦としては鉄線より真鍮線の方が先行したようです。
17世紀後半には低音弦が真鍮線、
高音弦には鉄線が使われるようになりました。

現在使われている弦は高炭素鋼。
それって何?!ですよね。
炭素鋼というのは鉄と炭素の合金なんだそうです。
一般的な鉄鋼材のこと。
炭素鋼は炭素量が増えると引っ張りの強さや硬さが増します。
その反面、処理はとても難しくなるようです。
ピアノ線というのは、炭素量の多い高炭素鋼による金属線のこと。

楽器って、工業の発達と共に歩んできているのですよね。
高炭素鋼によるピアノ線の普及は19世紀になってからのこと。
それ以前は低炭素鋼が使われていたそうです。

18世紀後半、音楽は一部の人たちのものではなく、
庶民のものへと変貌を遂げました。
大ホールに聴衆を集め、コンサートを開くようになったのです。
真鍮から高炭素鋼へと弦の材質が変わったのには、
このような背景があります。

音量への挑戦はフレームの発展より先に、
弦の発展の方が先行していたのですね。
弦の張力が増したために金属製のフレームが必要になった。
金属製フレームより先に、
張力のある弦の開発が先だったということ。
当然といえば当然のことですよね〜。(^_^;)


1808年の弦の張力は4.5トン
1850年頃の弦の張力は12トン
現代の弦の張力は20トン!



ところで、現代ピアノは1音に3本の弦が張られていますが、
クリストフォリのピアノは全音域で1音2弦だったそうです。
ベートーヴェンの頃に3本に増え、低音弦は巻線になりました。
もちろん当時はまだ真鍮線、もしくは鉄線で強度は低いものでした。
(しょっちゅう弦が切れたようです)

この複弦は音量の増大だけでなく、音色にも深く関係しています。
複弦の方が単弦より振動の減衰が遅くなり、余韻が残るとのこと。
しかし、同じ音程の複弦間を全く同じ条件に調律すると、
この特性が失われてしまうそうです。
複弦間のわずかなズレが余韻を生むのです。

現代のようにチューニングメーターもなく、
弦の強度が低かった時代は、
複数の弦を全く同じ条件で張ることはほとんど不可能でした。
必然的に余韻が生まれていたということですね。

私が今お世話になっている調律師さんは、
この余韻を作ってくださる方です。
音程は合っているけれど響きがない。
そんな調律に出会うことがありますが、
この調律師さんの手がけたピアノには豊かな響きがあるんです。
同じピアノでも、調律によって響きが変わるんですよね。
調律師さんの経験に裏打ちされた耳による職人技です。


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emksan at 13:19│TrackBack(0) ピアノ/ピアノの歴史 

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