2012年06月18日

発達障碍児の暗譜

私は生徒さんに、
挑戦できることは挑戦してもらいたいと、いつも思っています。
でも、その挑戦が生徒さんに不似合いで、
ただ苦労を強いるだけの場合は無理強いしません。
挑戦をあきらめるわけでもなく、
だからといって無理強いするわけでもなく・・・デス。

今日は発達障碍の子の暗譜について、
私が感じていることについてのお話です。

自閉症スペクトラムの子の暗譜は、
極端に2つに分かれるなぁと感じています。
一方は、1,2度聴いただけで覚えてしまう。
もう一方は、楽譜を見ないと頭が整理できず弾けなくなってしまう。

1,2度聴いただけで覚えてしまう子。
鍵盤の位置と音の高低が一致していて、
一度聴いただけでそれらを覚えてしまう。
指がまだ弾けていなくても、
頭の中では正しい鍵盤と正しい音が鳴っているのです。
あとはその通り指が動くよう練習するのみ。

1人すごいなぁという子がいて、
この子は片手ずつ弾けるようになると、
両手がパズルのようにピッタリと合わさります。
両手奏の練習をしていなくても、
片手ずつがすらすら弾けるようになっていれば、
両手が弾けるのです。

また、1度とは言いませんが、
何度か”見た”だけで覚えるタイプの子もいます。
こういう子は、鍵盤の動きで記憶します。
私の指の動きを見て記憶する。
また、こういう子は、楽譜が写真のように頭に入っているので、
その楽譜の映像記憶と私の鍵盤の動きを一致させることで、
一層理解が深まります。

音の高低を聞きとっていないとは言いませんが、
音の高低を意識する以上に、鍵盤の動きと、
写真のように記憶した楽譜が記憶の頼りなのだろうと感じます。

もう一方の、楽譜を見ないと頭が整理できないタイプの子。
こういう子は、暗譜をして弾くのに苦労します。
記憶できないわけではないんです。
ただ、弾いていて突然思考が止まり(もしくは音楽の流れが止まり)、
記憶していた1枚の楽譜が頭の中で破れて、
断片となり、散り散りになります。

こうなると、弾いていた指は止まり、
頭の中が一瞬停止します。
弾いている曲が、曲の途中で止まる、ということです。
しかし、ばらばらになった楽譜の断片を、
再びパズルのようにはめ込むと、
もう一度そこから弾き始めることができるのです。

暗譜はできている。
だけど、暗譜した状態で、
曲を最初から最後まで止まらずに弾くことが難しい。
どうしても楽曲の途中で、頭の中の楽譜がバラバラになってしまうのです。
こういう子は、楽譜があればきちんと止まらずに弾くことができます。

1度聴いたら覚えて弾けてしまう子も、
目で鍵盤の動きを見て記憶する子も、
このように楽曲の途中で頭の中にある楽譜がバラバラになってしまう子も、
私は、自閉症スペクトラムの子の”記憶”や”理解の仕方”というものを、
いつもパズルのようだなぁと感じます。
パズルの成り立ちと性質を想像すると、
彼らのことを少し理解できるように思うのです。

ところで、知的障碍の子の中にも暗譜が苦手な子がいます。
この場合、純粋に記憶するのが苦手なんだと感じています。
こういう子に共通するのは、
弾けるようになった楽曲でも1週間弾かずにいると、
嘘のように弾けなくなる・・・ということです。
こういう子がレパートリーを維持するのはとても大変なことです。
すぐに忘れてしまうからです。

2,3日弾かずにいると、
全く弾けなくなる個所が何か所か出てきてしまいます。
改めて片手ずつ練習しなきゃいけなくなる個所が、
出てきてしまうのです。

一口に”暗譜”といっても、いろんな個性があるものですね。
それぞれの個性に合わせたアプローチをといつも思います。
無理して暗譜させる必要はない。
でも、暗譜できるようなら暗譜する。
無理してレパートリーにする必要はない。
でも、本人がレパートリーとして残したいと思っているようであれば、
そのためのアプローチをする、です。

楽曲を弾けるようにしていくためのアプローチも、
個性によって方法論は変わってくるでしょう。
鍵盤の動きで覚えるタイプの子には鍵盤の動きを、
楽譜の模様で覚えるタイプの子には楽譜で、
音で覚えるタイプの子には音でアプローチをする。

そして、最終的にそれらがすべて一致するのが理想的ですね。
どれかに偏っているのでは、「挑戦」したことにはならないと思うからです。
音楽的自立を目指すのであれば出来得る限り、
「音の高低」「音の並び」「鍵盤の把握」「楽譜」を一致させたい。

ただ、それも”どこまでの音楽的自立を求めるか”なんですよね。
それぞれの子の個性に合った、音楽的自立というものがあるように思います。
こちらの一方的な物差しで、
音楽的自立はこうあるべき!を押し付けるのでは、
生徒さんは苦しい思いをするだけでしょうし、
身につくはずのことすら身につかなくなってしまうでしょう。

障碍のあるなしに関わらず、
いろんなタイプの生徒さんがいるなぁと思います。
それぞれの子が得意と思うところからアプローチし、
得意なところから理解を深めてもらう。
そうすると、音楽も自由で伸びやかになる。
そんな風に感じています。


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emksan at 11:53│TrackBack(0) ピアノ/レッスン | 障碍&幼児

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