2018年02月21日

大槌町、宮古市、石巻への旅:2日目/宮古市

岩手県の大槌町と宮古、宮城県石巻へ行ってきました。電子ピアノ支援は終了しましたが、今回は未来に繋がる交流を深めてくることができ、とても充実した感謝の3日間となりました!  

【2日目/宮古市】   

午前中は電子ピアノ支援でお世話になった、小成楽器店の向口さんとドライブ。何度かお会いし、お付き合いも長くなってきているので、お互い気遣いし過ぎることなく何でも話せる旧知の仲のよう。10時から13時までがあっという間でした。   

こちらは海がものすごくきれい!私は神奈川県横浜市川崎近辺の海しかみていないので、湾岸の海がこんなに透明だなんて、本当にびっくり。主人と義父がこの海を見たら、釣りがしたくなるだろうなぁと思いつつ、復興の進み具合を録画してきました。   

    

宮古市は仮設住宅から復興住宅に移ったり、新しく家を建てられる人が増えてきて、仮設住宅の取り壊しが始まっているとのことでした。それでも、生活資金が国民保険の6万5千円だけというお年寄りは、ローンが組めるわけでも仕事ができるわけでもないので、家賃が発生する復興住宅では生活が成り立たず、仮設から出られないとのことでした。また、宮古市、大槌町、山田町など、復興の進み具合に地域格差が生まれているらしく、大槌町などはまだ40%の人が仮設に残っているそうです。   

このように問題はまだまだありますが、以前来たときよりは復興が進み、あちらこちらにコンビニやスーパー、薬局を見かけました。車がなければ住みづらいことに変わりはありませんが、店が増えたことでずいぶん住みやすくなってきている様子。また、動画にあるように、新しい船や、海産物を加工するの工場など、活気が出てきているのを感じました。   

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向口さんとのランチ。宮古の駅前にはお寿司屋さんが何軒もあるんです。宮古のお刺身はやっぱり美味しい!   

宮古市魚市場の魚カレンダー 

以前、生ウニを送っていただいたとき、めちゃくちゃ美味しかったので買って帰りたかったのですが、残念ながら時期外れ。ウニが食べたい人はぜひ7、8月にどうぞ。ちょうど夏休みの時期ですね♪   

びっくりしたのは、私の大好物のはらこ飯がこの近辺の料理だったということ!このあたりは北海道に次ぐ全国第2位の鮭の産地なんだそうです。向口さんのお勧めは新巻鮭。とにかく旨い!とのこと。ランチは出来立てのはらこ飯をと思ったのですが、これまた時期外れ。はらこ飯は12月が時期で、この時期のいくらはプチプチとして食感がまるで違うそうです。駅弁ではない、出来たてのぷちぷちはらこ飯が食べたい〜!いつか絶対12月に来るぞ!    

ランチの後はN先生と。電子ピアノ支援を始めるきっかけとなったM先生は残念ながらインフルエンザ。N先生と二人でのお茶会となりました。喫茶店へ行く前に、震災前そこでピアノを教えていたという、N先生とM先生のご実家があった場所へ連れて行ってくださいました。目の前が海。今は工場だけが立ち、住宅はありません。以前たくさんの人でにぎわっていたというメイン通りも、津波で流され、商店もなくなりました。以前あった自分の家がどのあたりなのか悩むほど、住宅街は工場に代わり、区画整理で道路も変わりました。

そんな故郷の景色が様変わりしてゆく寂しさを伺いながら、異人館という海の傍にある喫茶店へ。雰囲気抜群の洋風の建物。ここは1階部分が津波に襲われました。今では目の前に壁のような高い堤防が立ち、海が見えなくなってしまいましたが、「堤防の上が歩けるようになり、そこから海が見えるから」と、同じ場所で再起した素敵なマスターのいる喫茶店です。美味しい珈琲をいただいていたら、マスターがアップルパイをご馳走してくださいました。これがとぉ〜っても美味しかった!    

今回の旅行をブログ記事にして、みなさんにご報告したいと思っているのだけれど、一体何を報告したらよいのか、どういうブログ記事にしたらよいのか悩んでいたので、N先生に相談させていただいたところ、   

「来てください。そして、美味しいものをたくさん食べて帰ってください!」   

とお話しくださいました。気持ちがすっきりして、相談させていただいてよかったと心から思いました。3日目の記事の後に、たくさんの美味しいものを改めてご紹介させていただきますね♪
  
その後、高速バスで盛岡へ。一度山田線にも乗ってみたいのですが、本数が少なく、ちょうどよい時間の電車がなかったので高速バスにしました。この時期の高速バスは2回目なのですが、車窓から見える川の雪景色が最高なんです。この川を見るための観光バスがあってもおかしくないと思うほど。バスの運転手さんは雪道に慣れているので安心! 期待通りの景色に大満足でした♪ 録画してきたので見てみてください。いいでしょ?!  

  

・・・3日目/石巻に続く   

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emksan at 13:58|Permalink 東日本大震災支援 

大槌町、宮古市、石巻への旅:1日目/大槌町

岩手県大槌町と宮古、宮城県石巻へ行ってきました。電子ピアノ支援は終了しましたが、未来に繋がる交流を深めることができて、充実した感謝の3日間となりました!

【1日目/大槌町】

1日目は東京(新幹線)⇒新花巻(JR釜石線)⇒釜石(車)⇒大槌町へ。初めて乗った釜石線は1両編成で線路は1本。新幹線は途中で飽きてしまう私も、釜石線は最初から最後まで楽しめました♪ 内陸の雪深さは雰囲気抜群。途中に遠野駅もあり、まさに宮沢賢治の世界。写真に撮りたかったのですが、ほとんどの乗客が地元の人だった上、座った席が通路側だったこともあり、撮れませんでした。   

「いつかレッスンを受けたい」と大槌町のK先生がおっしゃってくださったことで実現した今回の旅。家の事情で3か月以上先の予定は立てられないので、「今なら!」とこの1月に急遽決定。急だったにもかかわらず7名もの生徒さんたちにレッスンさせていただくことができました♪ 私の得意分野は「どうしたら弾けるようになるのかな?」と指導者側が悩むような生徒さんへのアプローチなので、1曲を仕上げるレッスンではなく、それぞれの子が普段レッスンで使用している教材で、いつも通りに30分から40分のレッスンをする、という一風変わった単発レッスン。   

「リズムが苦手な子、拍子感をなかなかつけてあげられない子、今停滞している子、手の形をみてもらいたい子」   

小学生から中学生まで、K先生から事前にLINEで伺っていたので、リズム教具、鍵盤幅の音の階段、3玉と5玉のカウンタービーズ、そのほか思いつくものをいくつか持参。K先生にはタンバリンとミニボンゴをご用意いただきました。その時々の生徒さんの状況に応じて使う教具なので、すべて使ったわけではないのですが、この日はリズム教具とカウンタービーズ、タンバリンを使いました。   

面白かったのは、まだ1度も譜読みしていない新曲をレッスンできた子がいたこと。私は「譜読みをしておいで」と宿題に出す前のアプローチをとても大切にしているのですが、それをK先生にお伝えできたのが嬉しかった。一人の子には花丸もあげられたし。(もちろんK先生の了承付きで♪)   

弾きにくいところ、どうやったらよいのかわからないところは、一緒に私に聞いてみようと、K先生が事前に生徒さんたちにお話しくださっていたので、とてもレッスンしやすく、あっという間に打ち解けることができました♪  

そうそう、持っていけばよかったと後悔したのはオルゴール。

    

オルゴール共鳴実験ブログ記事

オルゴールはなかったので、声で弦を共鳴させる実験だけすることに。こういう実験ってみんな目がきらっきらになるんですよね〜。みんなかわいかった〜!   

この日の夜はピアノ指導談義にK先生と花を咲かせ、夜10時頃チェックイン。朝起きたら、中庭から海が見えてびっくり。これなら朝日が見える時間に起きるんだったと、後悔してしまうほどの立地。  

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この写真は2階の中庭から撮っているのですが、3階まで津波で骨組みだけになったそうです。5年前にリニューアルオープン。1年前にはペッパーを導入。



軽くホラーなこのペッパーちゃんは、ロビー入口にいます。以前はまつげもつけていたそうなのですが、動いているうちに取れてしまったとか。(笑) ちなみに、これは社長さんのアイデア。おばさんになるとあれこれ聞けるようになるもので、受付の方にあれこれ聞いてきちゃいました。私が面白がって録画していたら、そのあとに団体のおじさまたちがやってきて、ペッパーちゃんと戯れておりました♪   

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上の写真も、同じ場所から撮ったもの。以前は砂浜が広がっていたそうです。震災前は、ホテルからそのまま泳ぎに行けたんですね。今は地形が変わって砂浜がなくなりました。その代わり、サーファーが波に乗っています。確かに波が大きくて、サーファーが喜びそうな綺麗な波の形をしているんですよ。   

・・・2日目/宮古市へつづく

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emksan at 11:12|Permalink 東日本大震災支援 

2018年02月14日

知っておきたい!トレンド古典派音楽(7)

ナチュラルホルンを得意とするプロのホルン奏者で、フラウトトラヴェルソを愛奏する古典派音楽の愛好家にして音楽事務所メヌエット・デア・フリューゲル代表の塚田聡さんに、私の興味が赴くままにインタビュー♪

けしごむをください⇒えいおうをうああい?!子音の雑音こそが命!

— (6)のソナタ形式のお話しで、「人物登場の際には明確に新キャラクターを紹介するつもりで区切って演奏することがコツとなる」というお話しがありました。私は、モダン楽器より古楽器の演奏を聴いたときの方が、キャラクターの違いがはっきりと聴こえてきて、また面白さを感じるのですが、塚田さんは古典派音楽を演奏する際、モダン楽器と古楽器にどのような違いを感じていらっしゃいますか?

 おっしゃる通り、ピリオド楽器(古楽器と言ったり、オリジナル楽器と言ったりしますが、同時代楽器という意味のピリオド楽器と言うのが一般的になってきています)による演奏は子音を明確に、おしゃべりをするように演奏するので、はっきりとした輪郭が出てくるという印象になります。 
 母音ばかりだと一聴柔らかく心地よいのですが、何を言っているのか分からない演奏になってしまいます。例えば「けしごむをください」から子音を取り除いて「えいおうをうああい」って口を動かさないで言われたら何を言われているか分からないでしょう?
 音の立ち上がりの表現力は確かにピリオド楽器系とモダン楽器系の大きな違いになると思います。
 モーツァルト時代の楽器、弦楽器だとガット弦のカリッ、チリッというような小気味のよい発音。ピアノだとフェルト(羊毛を機械で圧縮したもの)ではなく、鹿皮の小さなハンマーで弦を叩くので、やはり明確な発音が得られます。管体の軽い木管楽器の明瞭な発音、そして金管楽器は管が長い分、軽くアタックをつけるような初速がないと楽器が鳴りません。
 現代(モダン)楽器による演奏は、音の出だしがブルンだとかカリだとか雑音が入るのを嫌い、なるべくなめらかに発音するのがよいと一般的に推奨されています。しかしそれら、頭につく種々の雑音こそ実は命で、それがないと、冒頭の「けしごむをください」の母音だけ版のようになってしまうのです。

Deine Zauber binden wieder, was die Mode streng geteilt;

 これはベートーヴェンのシンフォニー第9番の歌詞の一部ですが、単語頭の子音を様々な口の形をつくって発音してみてください。Dは上口蓋から舌の離れた時の勢い、Zは舌が上口蓋から離れる時の摩擦音、Bは唇を思いっ切り離す時の破裂音、Wは上の歯と下唇の間で起こる摩擦音。Mではしっかりと口を閉じ、Sはドイツ語の場合強烈な摩擦音を伴います。Gは口の奥で起こる堰きを切るような勢い。
 この一行だけでも子音の多彩さは大変なもんです。またドイツ語には子音がダブル・トリプルになることも多く(Streng, Flugel, Gros, Freude, Schwester…)、歌うときも、つばを飛ばしつつ子音で表現してゆくのです。古典派の音楽は語る要素からなる音楽なので、器楽でもよっぽど子音を立てなければならないということをご理解いただけますでしょうか。


— 本来ならモダン楽器でもそう演奏されるべきところ、いつからか、こういった摩擦音や破裂音などが嫌われるようになり、それが本来豊富な子音を生かすべく(摩擦音ありきで)作曲された古典派の音楽にも当てはめて演奏されるようになってしまった、ということでしょうか。いつ頃からこういう傾向になったのでしょう?

 SP復刻など昔の演奏家の録音がCDやストリーミング等で容易に聴くことができるようになり、そんな疑問をもちながらかつての巨匠の録音を聴いているのですが、トスカニーニは、そんなの無理、というぐらいの猛烈なスピード感のある弓使いと舌つき(管楽器は舌で子音を表現します)で、スピーカー越しに唾が飛んできそうな勢いがあります。 
 しかし、これも巨匠スタイルのフルトヴェングラーになると、初速の勢いよりも音圧の方が強調されています。一概にいつの時代から子音の表現が弱まってきたと決めることはできませんが、こんな興味深い話を本で読みまして、それをここで紹介したいと思います。

 バロックフルートのパイオニアであり古楽界を牽引してきたバルトルド・クイケン氏の著した「バロック音楽の演奏法〜楽譜から音楽へ」の邦訳本がつい先頃出版となったのですが、そこに驚くべき、そしてなるほど、と頷けるエピソードが紹介されていました。かいつまんで紹介しましょう。詳細はぜひその新刊書をお読みくださいね。
 20世紀中頃にもっとも影響力のあったレコーディング・ディレクターの一人、ウォルター・レッグと指揮者のヘルベルト・フォン・カラヤンの間で、次のように弦楽器の響きを発展させたと紹介されています。

精巧に磨かれ、美のない世界とは無縁の、非常に輝かしく、出だしで雑音のないフォルティッシモ・・・。私たちは数年間、弦楽器はつねに弾き始めからヴィブラートをかけ、弓はすでに弾く前から動き始めているべきだという考えのもとに共に活動した。もし動き出す弓がすでにヴィブラートをかけられている弦に触れれば、美しい入りになる。しかし、もし十分にヴィブラートがかけられていない弦に弓が直接当たれば、カチャッとした音が出るだろう。
《楽譜から音楽へ》バルトルド・クイケン著 越懸澤麻衣訳 P.94より

楽譜から音楽へ バロック音楽の演奏法
バルトルド・クイケン
道和書院
2018-02-07



 このカラヤンの言葉は、彼の演奏にそっくり反映され実現されています。しかも、あらゆる時代の作品に。
 カラヤンはまさに子音の立った音を雑音とみなし、美しい音楽から排除すべきだと考えたのです。カラヤンの影響力は絶大で、十分にヴィブラートがかけられ、発音時にカチャッとしたような雑音が入らない音こそが弦楽器の、そして全ての楽器の音という価値観を世界に満遍なく広めることに成功しました。

 カラヤンの指揮姿って目をつぶって、タクトをあまり叩かず水平方向に動かしている印象がありませんか?それが若かりし頃のカラヤンって、1950年代のモノクロの映像を見ると、身体が切れんばかりに縦に激しく振っていたのですよ。
 ライブではなく、レコーディングセッションを組みステレオでオーケストラが世界のどこででも聴かれるようになると、ご存知の通り、彼は帝王としてクラシック界に君臨してゆきます。彼のタクトから生み出される音楽は、謹厳で重厚で高貴な姿に変貌してゆき、その音楽は商業的にも成功し崇めたてまつられ、世界標準となっていったのです。


第2次世界大戦前まで各国異なる楽器を使用していた?!オーケストラがグローバル化する以前の演奏とは?

— 世界標準といえば、第2次世界大戦前までヨーロッパ各地では異なる楽器が使用されていたんですよね? 私はここ最近そのことを塚田さんから教えていただいて驚いたのですが、カラヤンはまさに楽器がグローバル化する過渡期に活躍した指揮者なのですね。

 楽器も違えば奏法も違いました。私が学生時代ぐらいまで(30年前)は、レコード越しでも一聴してどこの国のオーケストラかすぐに分かったものです。特にオーボエとホルンは国ごとの特徴が顕著で、主にそのふたつの楽器を手掛かりにオーケストラが特定できましたね。 
 かつて(概ねLP時代)の各国におけるホルンの一般的な音色の傾向を言葉で表現してみると(受け取り方には個人差がありますので実際に聴いてみてくださいね)、フランスのホルンはピストン・バルブ(他の国々はロータリー・バルブ)で管が短いので薄い音なのですがほんのりとヴィブラートがかかっていました。ロシアのホルンはヴィブラートが濃厚。オランダと東欧のホルンは暗く輪郭までぼやけ気味。アメリカのホルンは、長い管を好む傾向があり、やはり肉厚な傾向がありました。イギリスのホルンは明るめの音を指向、ドイツのホルンは芯があり明るくノーブルな音、ウィンナホルンはまたシステムの異なる楽器で、柔らかさから強奏におけるブラッシーな猛々しさまで幅広い表現力をもつ、などなど。
 ところがグローバル化の波は各地にあるオーケストラの上にもザブンザブンと襲いかかり、その個性を平均化していきました。
 ファゴットではなくバソンというフランスらしい明るく軽やかな音色をもつ楽器、また今紹介したピストン・ホルンなどを用い、フランスの音を誇りに演奏を繰り広げていた「パリ音楽院管弦楽団」は、時の文化相の、「フランスにも世界に誇るオーケストラを」という要請の元、1967年に解散されてしまいます。「パリ管弦楽団」へ発展的解消と言うと言葉はいいのですが、進められたのはフランス独自の音色を追求することではなく、ベルリンフィルやニューヨークフィルに対抗できるオーケストラ・サウンドをということで、フランスでしか用いられていなかった管楽器が、指揮者、カラヤンやバレンボイムの元、どんどん世界標準のものに替えられていったのです。

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[写真:かつてフランスのオーケストラで用いられていたピストン・ホルン]

 せっかく戦争では勝ったフランスもドイツに対して完全降伏です。カラヤンはグローバル化過渡期に活躍というよりも、そこに隠されたドイツ絶対主義の首謀者と言えなくもありません。本人がどれだけそれを意識していたのか分かりませんが。
 パリ管弦楽団はすっかり骨抜きにされ、ドイツシステムの管楽器がフランスシステムの中に中途半端に混ざり合い、楽器ばかりでなく奏法も変化を強いられました。かつてのパリ音楽院管弦楽団の音色からはかけ離れた、個性の乏しい凡庸なオーケストラのひとつとなってしまったのです。
 19世紀に栄華を誇ったプレイエル・ピアノが、世界統一規格のアクションを取り入れる中で、プレイエルにしかなかった美点に気づくことなく、かつての楽器とは似ても似つかないものになってしまったことなどと軌を一つとする話です。

 エスプリなどと表現される、言葉にできないような曖昧さ(それこそ芸術)は、グローバリズムの分かりやすさが求められる世の中では簡単に吹き飛ばされてしまうのですね。アンドレ・クリュイタンスやジャン・マルティノンといった指揮者との怪しげなエスプリのぷんぷん香るかつての演奏は、スピーカーの奥にしまい込まれたまま、もう生演奏として再現されることはないのでしょうか。
 いや、今、フランスの演奏家は不死鳥のごとく再び立ち上がりつつあります。自国人だから気がつくこの失われた半世紀を取り戻すべく、彼らは動き出しました。


[ストラヴィンスキー作曲〈春の祭典〉フランソワ=グザビエ・ロト指揮レ・シエクル]

 この動画をご覧ください。演奏は6:00から始まります。オーケストラを見慣れている方でも、一見して今のオーケストラで使用されている楽器との違いは分からないかもしれませんが、その楽器を演奏したことのある人でしたら、マイナーな部分が今の楽器と異なることが分かるでしょう。
 この演奏団体は〈春の祭典〉の1913年初演当時の楽器を集めて演奏しているピリオド・オーケストラなのです。初演から100年後にあたる2013年のプロムス音楽祭における演奏です。
 まず冒頭でソロを吹くバソンは見た目にも異なりますね。ホルンも大写しになりますが、これがピストン・ホルンです。トロンボーンもチューバも小ぶりです。
 それから違うのは楽器そのものだけではなく、奏法も自信をもってフランスの奏法を取り戻していることです。録音で違いを感じるのは難しいかもしれませんが、オーボエ、クラリネットの絹の手触りのような音質。弦楽器もガット弦(ヴァイオリンの1番線は裸)を使用しているので、今のオーケストラとは響きが異なります。
 そして改めて驚くのは、これらの楽器の音質をもってすると、ストラヴィンスキーの意図した、異教の神秘性だったり原始の残虐性のような音響がまざまざと蘇ることです。
 一度手放してしまった楽器をふたたび手にして集結したフランス人演奏家。どうでしょう、ここではフランス音楽ならではのエスプリが表現されているではありませんか?消滅したかに見えたフランスの音をふたたび手に入れる役を演じたのは、ここでもピリオド楽器による演奏だったのです。

 しかし、これらのグローバル化の波から自国の音楽を救い出そうという各国の動きは、新たな問題を、特に西洋クラシックの伝統のない我々日本人に投げかけました。
 これまでグローバル化の中で、まさしく文字通り、地球に住むものならば誰でも演奏できたクラシック音楽が、実は各国の民族音楽であり、その国以外の民族が、本質に迫る演奏をすることができるのか、と問われているように思うのです。
 事実、このオーケストラ〈レ・シエクル〉の民族純粋度合いは高そう。少なくともみなさんフランス語で会話をしているでしょう。ここに、ホルンがいくら上手だとしても、フランス語が達者じゃない人が入って演奏できるでしょうか。「それはフランス語のaccentじゃないぞ」、と言われたらもうお手上げ、というような濃密さがこの〈春の祭典〉の演奏にはあるのです。
 「歌は世につれ 世は歌につれ」、移民排斥を謳う保守政党の台頭する世の中の動きに連動して、生まれ出るべくして生まれ出たフランスに特化したオーケストラ。
 皮肉になりますが、我々日本人の演奏家にとっては、カラヤンやイ・ムジチ合奏団のつくった世界企画のクラシック音楽、分かりやすく慣らされグローバル化された演奏は実は非常にありがたい賜物だったのかもしれません。

 話題がちょっと古典派から遠ざかってしまったので、最後に古典派に触れてこの回を締めようと思います。
 私的さらには民族的な音楽になってゆくロマン派の前に位置する古典派の時代は、汎ヨーロッパ的な音楽が意識されていた時代です。全人類に理解できる音楽というのがトレードマークの古典派音楽。おいおいそういったお話しもできればと思っています。



塚田 聡(つかだ さとし)
東京芸術大学卒業後アムステルダムに留学、C.モーリー氏にナチュラルホルンを師事する他、古典フルートを18世紀オーケストラの首席フルーティスト、K.ヒュンテラー氏に師事するなど古典派音楽への造詣を深めた。2001年に再度渡欧、T.v.d.ツヴァルト氏にナチュラルホルンを師事する。音楽事務所メヌエット・デア・フリューゲルの代表。
・ディスコグラフィ・
ナチュラルホルン〜自然倍音の旋律美と素朴な力強さ
森の響き 〜ドイツ後期ロマン派・ブラームスの魅力〜
・ホームページ・
ラ・バンド・サンパ
古典派シンフォニー百花繚乱
シューベルト研究所
ナチュラルホルンアンサンブル東京


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emksan at 09:00|Permalink 知っておきたい!トレンド古典派音楽 

2018年02月05日

次回は3月15日

発達障碍ピアノレッスン情報交換会・池上

東京都大田区、東急池上線池上駅から徒歩1分のところにあるスター楽器を母体とした会で、地域のピアノ指導者とスター楽器所属ピアノ指導者が運営しています。以下のように、全般をフォローできる体制を整え、ひとりひとりのご要望にお応えできる情報交換会を目指しています。単発でのご参加も大歓迎です。

・障碍の有無はわからないけれど指導に悩んでいる生徒さんがいる
・発達障碍について何も知らないので知りたい
・発達障碍ピアノレッスンの経験値が高い人と情報交換したい
・普通学級に通うグレーの子へのレッスンで悩んでいる
・重度の発達障碍の子へのレッスンで悩んでいる


日程 3月15日(木) 10時〜12時
場所 
スター楽器池上店 池上ホール 
参加
費 初回のみネームプレート代40円
お申込み スター楽器 03-3755-2131 (担当:佐藤)


・・・3月15日の内容は・・・


《事例の紹介》
      
事例をたくさん知り、アプローチの引き出しを増やすことが目の前の生徒さんに応じた柔軟なレッスンに繋がるため、情報交換会ではお互いの事例を紹介し合う時間を設けています。次回は、三上緑先生が幼稚園男児のレッスンをご紹介くださいます。
  
「録画などはありませんが、実際使ったカードなどを持参して30分レッスンの中で、変わらず続けることと、変えてみていることがあり、その結果、子どもに起きた変化をお伝えすることができるかなと思っています。」(三上先生)

  
《楽器店の営業マンに聞いてみよう》
  
自閉スペクトラム症の子には感覚過敏で苦手な音のある子がいますが、そういった子には電子楽器がよいのか、アコースティックがよいのか? そんな悩みを抱えていらした先生が、楽器店の営業マンに相談したことがきっかけで生まれた企画です。
  
スター楽器の芳垣真之さん、カワイ横浜の立石理さんと自由に語り合いましょう。立石さんも、みなさんにお伺いしたいことがたくさんあるとのことでした! ピアノ指導者と営業マンがお互いを理解し合える場になったならと思います。

  
《フリートークタイム》
  
お互いの相談を打ち明け合い、みんなでアイデアを出し合いましょう! 具体的な悩みを抱えている方は、この時間にどんどん相談してみてくださいね。経験豊富な先生がたくさんいらっしゃるので、レッスンですぐに使えるアプローチや、これまで持てずにいた視点を得ることができるだろうと思います。この時間で足りなかった人は、ぜひランチ会にご参加ください♪ ランチ会でも相談に乗ってもらうことができます。


ほかの地域にも発達障碍に関するピアノ指導者の集いがあります!
詳細は
こちらをご覧ください。


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emksan at 11:30|Permalink 障碍&幼児 | 発達障碍児レッスン相談

2018年01月31日

発達障碍ピアノレッスン情報交換会・池上

昨日はスター楽器池上店で発達障碍ピアノレッスン情報交換会がありました。2、3か月に1回のペース、今回で5回目となります。単発の参加も大歓迎。昨日はなんと、会津若松と仙台から参加してくださった方がいらっしゃいました♪

この会が大切にしていることは、お互いの経験を共感し合える空気感です。そのため、2時間のうち後半1時間はフリートークタイムにしています。自己紹介をして、お互いの悩みを打ち明け合い、みんなでそのことについて考え、アイデアを出していきます。打ち解け合える時間になるので、いつの間にか朗らかな笑顔に包まれるんですよ。

ここ何回かの前半は、お二人の先生にレッスン風景動画を紹介していただきました。昨日は私の番。広汎性発達障碍で多動な男の子の、2013年から最近までの成長の記録、読譜、手の形、音の並びといったアプローチ、それらを使ったレッスン風景の動画を紹介させていただきました。私はそれほど教具を多用するタイプではないのですが、それでも5年分となると結構な教具の数。
  
・音の階段(佐野先生製作)
・2段の音の階段(ムジカノーヴァ付録)
・リズム教具
・ウッドブロック(赤青シール付)
・読譜教材(私がワードで作ったもの)
・動物指輪(佐野先生製作)
・手を置く台と手のひらを置く台
・音の高低用鍵盤シート
・カワイ出版の楽譜
・鍵盤把握用教具

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パワーポイントで作成したものをプロジェクターで映しながら説明させていただいたのですが、結構な分量になったので、今回1回だけではもったいないかなと、今後講座としてではなく、各地の先生方の集いにお邪魔させていただくという形で、お話しに伺わせていただくことにしました。少人数の集まりでもご負担にならないよう、交通費と地域によっては宿泊費だけはいただきますが、受講料はいただきません。ご興味のある方は、FBで私までお気軽にお問合せください♪ さっそく4月に池袋の集いへ伺わせていただくことになりました。詳細が決まり次第、こちらのブログ『発達障碍ピアノレッスン』に投稿されるだろうと思います。
 
このブログは、各地の先生方が自主的に運営している会の告知版です。昨年は首都圏に多くの情報交換会が立ち上がりました。私が運営に携わっているのは池上だけで、ほかの地域はその地域の先生方が独自に運営なさっているのですが、それぞれが地域に根差したよりよい会にしていくため、お互いに支え合い、助け合っています。

特に、首都圏は電車であらゆる方面に移動できるので、こちらの情報交換会と日程の都合が合わなければ、あちらの情報交換会に参加する、なんてことができるんですよね。そのため、お互いの開催日時を交換し、発信し合うことで、「そのときどきに応じて参加できる地域に参加する」体制にすべく、協力し合っています。

また、まだ認知度が低く、お近くの地域に情報交換会があるのに、それを知らないまま、遠くの地域の情報交換会に参加なさる方もいらっしゃるため、当日参加してくださった方々には、ほかの地域の日程をお知らせしています。2月は結構あちらこちらであるので、ご興味のある方は、各地域のピアノ指導者が自主運営している会からのお知らせ『発達障碍ピアノレッスン』をご覧くださいね♪

最近、FB非公開グループ『発達障碍ピアノレッスン』では、山形や仙台といった東北で集おうという呼びかけをしてくださった先生がいらして、そこには多くの方からのコメントが寄せられていました。どうやら実現しそうです。こちらもご興味のある方は、ぜひFBグループへいらしてくださいね。参加にはFBへの登録が必要ですが、ピアノ指導者(他楽器指導者)や楽器店の方であれば、グループに入っていただくことができます。ピアノ指導者かどうかわからない方からのリクエストは、管理人の神野先生の方から確認させていただくためのメッセージが届きますので、どうぞメッセージの受信を見逃さないようお願いいたします。確認でき次第、メンバー登録させていただきます♪ どうぞお気軽にご参加くださいね。

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emksan at 12:35|Permalink

2018年01月28日

知っておきたい!トレンド古典派音楽(6)

ナチュラルホルンを得意とするプロのホルン奏者で、フラウトトラヴェルソを愛奏する古典派音楽の愛好家にして音楽事務所メヌエット・デア・フリューゲル代表の塚田聡さんに、私の興味が赴くままにインタビュー♪

ソナタ形式にはいろんな型がある!モーツァルトは『劇場(登場人物)型』?!

— ソナタ形式というと、頭でっかちに聴いてしまいがちになるのですが、(5)でお話しくださったように物語を感じて聴くと、また違った景色が見えてきますね。《フィンガルの洞窟》の再現部で提示部とは異なる楽器(2本のクラリネット)で演奏されるところなんて、提示部とはまた違った心象風景に聴こえるのですから本当に面白いです!

《フィンガルの洞窟》は典型的な『物語型ソナタ形式』ですね。って自分で勝手に名づけたのですが。
ソナタ形式を現在の音楽の教科書では一般的な雛形として、「第1主題提示部→推移部→第2主題提示部→推移部→小終結部→展開部→再現部(提示部と同じ流れ)→終結部」のように解説していますが、この雛形を絶対的な完成形としてしまうと、そこから外れたものは、未成熟な作品とみなされてしまう危険性があります。 ソナタ形式の曲全てがこの雛形に沿って作曲されているのではなく、いろいろな型があるというお話を今回はいたしましょう。 

私は高校時代、「ソナタ形式オタク」でベートーヴェンの信奉者でした。ベートーヴェン視点でモーツァルトを眺めると、モーツァルトは形式的に未熟な作曲家に見えてしまって、あろうことか軽蔑の眼差しを送っていたのです。言い訳すると、その後すぐにその未熟な自分に気がつき、大学時代はモーツァルト一色になったのですが。 まあそんなことはさておき、はっきり言うと、モーツァルトの作品にはいわゆるこの教科書的ソナタ形式の雛形に自然に当てはまる曲は存在しません。無理やりに当てはめようとすれば後期の作品に無くはないのですが、それでもパチっとははまらないのです。
現在の教科書に書かれているようなソナタ形式の雛形って、当時の作曲家にそれが意識されたのは、古典派の終盤になってからです。かといって当時はもちろん「ソナタ形式マニュアル」なんていうものはありませんでしたからね。ハイドン後期の12曲のザロモン・シンフォニーと、ソナタ形式の大伽藍を打ち立てたベートーヴェンにその典型例を見ることはできます。しかしそれらのどの曲をとってもこれが典型的なソナタ形式です、なんて言えるものは実はありません。雛形から外れる意外性を表現することこそが、作曲家の腕の見せどころ、といわんばかりの不意打ち、ウィットや創意工夫に、傑作と呼ばれる作品ほどあふれているのです。


— ソナタ形式について勉強し始めたばかりの頃は、雛形通りでない楽曲ばかりなので、ソナタ形式をどう受け止めたらよいのかわからなかったんです。例えば、第1主題は男性主題、第2主題は女性主題、第1主題と第2主題のコントラストが大切だと言われても、モーツァルトの楽曲にはどちらも女性っぽい主題があったり、さほどコントラストを感じない作品があったりしますよね。目の前の楽曲を雛形に当てはめて考えようと躍起になるのではなく、雛形から外れた意外性や不意打ちに気がつけるようになると、柔軟性溢れるソナタ形式に出会え、ソナタ形式が堅物ではない身近なものに感じられそうです。
ところで、《フィンガルの洞窟》は「物語型ソナタ形式」ということでしたが、ほかにどのような型のソナタ形式があるのですか?


モーツァルトの作品は、先ほども言いましたが、現在の教科書的モデルにぴったり合致するものはありません。各主題を第1主題、第2主題、推移主題、と当てはめていってもモーツァルトの場合、どうしてもしっくり行かないのです。そもそも本人がそのように作曲しているわけではないので当然なのですが。 
彼の作風は多岐に渡るので一概に定義づけることはできませんが、モーツァルトのソナタ形式を『劇場型(登場人物型)』と名づけるのはどうでしょう。
例えばシンフォニー 第35番 K.385〈ハフナー〉の第1楽章。この曲の場合、比較的似通ったキャラクターの登場人物が次から次へと出てくるのですが、彼らの感情・表情はめまぐるしく変化してゆきます。この曲の場合、登場人物は舞台上に複数人が出ずっぱりで、お互いが密に関係をもって物語を紡いでゆきます。動機展開が見事で、冒頭に提示された動機が全曲にわたり影に陽に活躍してゆく様が壮観です。対照的な役を担う第2主題(女性的な主題)は出てこなくて、この曲の場合、登場人物全員が男性かもしれません。とても締まったソナタ形式です。
登場人物の入れ替わり、気分の転換はモーツァルトの場合とても早く4小節・8小節でどんどん変わっていきます。登場人物がたくさんいて、めまぐるしく舞台上が動くオペラ、〈フィガロの結婚〉のようです。
演奏する際は、人物の性格の違いをはっきりと描く必要があり、人物登場の際には明確に新キャラクターを紹介するつもりで区切って演奏することがコツとなります。


W.A.モーツァルト:シンフォニー 第35番 ニ長調 K.385「ハフナー」
N.アーノンクール/アムステルダム・コンセルトヘボウ・オーケストラ


シューベルトは『さすらい型ソナタ形式』?!

ほかの古典派の時代にさまざまに書かれたシンフォニーも、ソナタ形式の雛形に当てはめようとするとなんか未熟な曲になってしまうことが多いのです。魅力的なテーマが続々と絡まりあってゆく、なんていうパターンの作品が多く、その曲にしっくりあった聴き方を探っていくと、これまで傑作なんて思っていなかった曲が輝きだします。花や香草、木の実などをごたごたに混ぜたカラフルな室内香をポプリと言いますよね。あんな感じでいろいろなテーマが関係をもちながら混じり合ってひとつの形をつくる、『ポプリ型ソナタ形式』と名づけたくなる作品もよく見られます。ヨハン・シュターミツなどマンハイム楽派のシンフォニーは、そういう風に聴くと納得できますよ。

シューベルトのソナタ形式は、これもベートーヴェン型雛形に照らし合わせて聴くと冗長で動機展開もあまりなくて、おもしろくない、ということになってしまいます。シューベルトの第1楽章は『さすらい型ソナタ形式』とでも名づけたいのですが。
さすらう主人公がさまざまな風景に出会い、心の中は別れた彼女のことを想いながら一人、希望をもったり絶望したりしながら逡巡している、というような感じのソナタ形式です。ここに波長が合うと、シューベルトのソナタ形式はちっとも長く感じません。

古典派の時代には多様なソナタ形式が存在し、それぞれが時代や地域、また作曲家自身の価値観に基づいて書かれているので、時代が進むにつれ発展・進歩を遂げ完成に導かれるのだ、というような考え方にとらわれないようにしなければなりません。
モーツァルトのシンフォニーの第1番 K.16(8歳の作品)と第41番 K.551のどちらが優れた作品かと問われたら、どのように答えますか?
「そんなの41番に決まっているでしょう!」と大半の方が答えるでしょうね。
第1番のシンフォニーが書かれた1764年当時、ロンドンで鳴っていたシンフォニー、ヨハン・クリスティアン・バッハやカール・フリードリヒ・アーベルのものと比べて、この変ホ長調のシンフォニーはまるで遜色がありません。形式もかなり工夫の凝らされたもので、幼稚とか習作などと断じてしまうには憚られる優れたシンフォニーなのです。
当時のロンドンの価値観に身を浸して(バッハやアーベルの作品の価値に目覚めてから)聴くならば、1番のシンフォニーの41番のシンフォニーとは全く異なる美点は何物にも代えがたいと思われるはずです。

そのようなことを踏まえた上で古典派の作品を聴くと、どの年代の作品も、その創意工夫にあふれた形式が、ドラマティックに語りかけてきます。
第1主題、経過句、属調に転調して、第2主題、小終結部、展開部があり再現され、終結部で再び展開がなされる、というような大まかな流れを意識しながら、各テーマを覚え、そこに含まれる動機がいかに展開されてゆくか、冒険するような感覚で聴いてみてください。

調性はドラマにおける場面のようなものなので、転調がどのようにされてゆくかに注意を払うことは、場面転換の妙を知るために押さえておきたいポイントになります。主調は帰るべき家です。転調を繰り返し家から離れ遠くなってゆくほど不安感や冒険心がかきたてられ、再び家にたどり着いた時の安心感も増すというものです。

また、ソナタ形式における動機労作の醍醐味を知ることも大きな楽しみです。
ベートーヴェンの第5番のシンフォニーで言えば、ダダダダーンの4つの音符を動機と呼び、その動機の積み重ねや展開によって音楽をつくる手法を動機労作といいます。まさにこの曲、冒頭からこの4つの音符が積み重なることによってできていますよね。第2主題に入ってもバスにこの動機がすぐに現れることを聴き逃さないでください。

「ロンド-ソナタ形式」、「複合三部形式」、「変奏曲」など、いかつい名前が多くて、いかにも前知識が求められ、勉強して理解してから聴かなければいけない、というイメージを持たれがちな古典派の音楽ですが、大体の起承転結の形式が決まっていて、水戸黄門のように、毎回ストーリーや登場人物は違うんだけど、ドラマの大体の流れは決まっている。それゆえに安心して冒険に身をまかせることができる、というような音楽が、古典派のシンフォニーやソナタなのです。
形式探求の奥深さの鉱脈は尽きることはありません。知識と経験を積み重ねるほど果てしなくおもしろくなってゆくのもクラシック音楽の醍醐味です。ソナタ形式オタク!は楽しいですよ!



塚田 聡(つかだ さとし)
東京芸術大学卒業後アムステルダムに留学、C.モーリー氏にナチュラルホルンを師事する他、古典フルートを18世紀オーケストラの首席フルーティスト、K.ヒュンテラー氏に師事するなど古典派音楽への造詣を深めた。2001年に再度渡欧、T.v.d.ツヴァルト氏にナチュラルホルンを師事する。音楽事務所メヌエット・デア・フリューゲルの代表。
・ディスコグラフィ・
ナチュラルホルン〜自然倍音の旋律美と素朴な力強さ
森の響き 〜ドイツ後期ロマン派・ブラームスの魅力〜
・ホームページ・
ラ・バンド・サンパ
古典派シンフォニー百花繚乱
シューベルト研究所
ナチュラルホルンアンサンブル東京



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emksan at 15:03|Permalink 知っておきたい!トレンド古典派音楽